東京地方裁判所 昭和29年(モ)69号 判決
東京都杉並区成宗一丁目二百六十八番地
申立人(債務者)
伊藤顯敏
同都同区成宗二丁目六百六十八番地
同
金子千尋
同都大田区田園調布一丁目三十八番地
同
金子靖夫
右申立人等代理人辯護士
滝内礼作
同都澁谷区代々木初町五百九十八番地
被申立人(債權者)藤倉潔承繼人
藤倉清子
同所
同
藤倉英夫
同所
同
藤倉正之
同所
同
藤倉兼好
同所
同
藤倉明治
右明治法定代理人親權者母
藤倉清子
同都目黑区平町五十七番地
被申立人(債權者)藤倉潔承繼人
香月克子
同都目黑区綠ケ丘二千二百六十五番地
被申立人(債權者)
三宅正彦
川崎市渡田山王町十九番地
同
古沢健
東京都目黑区柿ノ木坂二百八十九番地
同
高橋長之
被申立人等代理人辯護士
中井宗夫
右当事者間の昭和二九年(モ)第六九号仮処分決定取消申立事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。
主文
当裁判所が昭和二七年(ヨ)第四八八七号仮処分申請事件につき、同年九月十九日なした仮処分決定のうち申立人等の北日本製鉄株式会社取締役としての職務の執行を禁止し、取締役職務代行者に弁護士今井常一を選任した部分を取り消す。
申立費用は四分してその三を被申立人三宅正彦、同古沢健及び同高橋長之の負担とし、その一をその他の被申立人等の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
申立人等は主文第一項と同趣旨の判決を求め、申立の理由として
「(一)被申立人三宅正彦、古沢健、高橋長之及び亡藤倉潔(昭和二十七年九月二十四日死亡し、藤倉清子、同英夫、同正之、同兼好、同明治及び香月克子において相続した)は、申立人等を債務者として当裁判所昭和二七年(ヨ)第四八八七号を以て仮処分を申請し、当裁判所は、同年九月十九日右事件につき申立人等の北日本製鉄株式会社取締役の職務を執行することを禁止し、同社取締役職務代行者として弁護士今井常一を選任する等を内容とする仮処分決定をした。
(二)しかるに、北日本製鉄株式会社においては、株主が商法第二百三十七条の規定により、裁判所の許可を得て昭和二十八年十二月十九日臨時株主総会を招集し、この総会で会社を解散する旨の決議がなされ、同時に清算人として金子靖夫及び柴山兼四郎が選任された。
(三)同社の解散により、清算人が会社の業務の執行機関となつて、従来の取締役の地位が消滅した以上、前記仮処分決定のうち、右取締役の職務の執行を禁止し、職務代行者を選任した部分は、その必要がなくなり事情が変更したことになるので、その取消を求める。」
旨述べ、疎明として甲第一号証を提出した。
被申立人等は適法な呼出を受けたにもかゝわらず、本件口頭弁論期日に出頭しないが、当裁判所が陳述したものとみなした答弁書の記載によれば、
「本件申立を却下する。」との判決を求め申立の理由に対する答弁は、
「(一)申立人等の主張中(一)及び(二)の事実は認めるが、(三)の主張は争う。
(二)申立人等主張のような解散の決議はつぎの理由によつて無効であり、したがつて、会社が解散したことを前提とする申立人等の本件申立は理由がない。
(イ)会社については取締役職務代行者として弁護士今井常一が選任されている以上、右解散決議のための臨時株主総会は同人が招集すべきものである。しかるに同人の関知しない間にこの決議がなされたのであるから、その無効であることはいうまでもない。
(ロ)また右総会の招集が商法第二百三十七条により裁判所の許可を得てなされても、会社の事業継続の可否については右代行者が最も適確に判断し得るところであるから、この許可をなすに際しては同人の意見を求めなければならない。しかるに、本件の場合には、同人の意見を求めないでなされているからこの許可が違法であり、これに基いて招集された総会における解散の決議もまた無効である。
(ハ)会社を解散させれば取締役の地位は消滅し、したがつて、取締役職務代行者の地位も消滅する。代行者を解任するならとにかく、このような手続によらないで、裁判所のなした仮処分決定を無意味にしてしまう決議をすることは違法であるから、右解散の決議は無効である。」
と主張することに帰着する。
理由
申立人等主張の(一)及び(二)の事実は当事者間に争のないところである。
被申立人等は右解散の決議が無効であると主張して前記(二)の各理由をあげているので、以下これについて判断する。
まず、右株主総会は取締役職務代行者弁護士今井常一が招集したものではないと主張しているけれども、その総会は、商法第二百三十七条第二項により、株主がその権限に基いて招集したものであるから、主張自体失当である。
つぎに、右総会の招集許可に際し、裁判所は、前記今井常一の意見を求めなかつたと主張するけれども、裁判所が株主の申請により総会招集を許可するに際し会社取締役の意見を求めなければならないという法律上の規定なく、取締役職務代行者についても同様であるから、この主張もそれ自体理由がない。
また、前記解散決議は仮処分の決定を無意味にする内容を有し、無効であると主張するけれども、当裁判所のした本件仮処分決定はたゞ、申立人等を会社の取締役に選任した株主総会の決議不存在確認の本案判決の確定に至るまで、申立人等に対し取締役としての職務を執行することを禁止するとともに、その職務代行者を選任したのみであつて、会社が解散することについては何等の禁止、制限をも加えたものでないから、本件解散決議が右決定の趣旨内容に反しないことは明らかである。このように会社解散の決議をすること自体が禁止されていない以上その決議がなされたため、仮処分決定の取消又は変更されるような事態を惹起したとしても、仮処分が本来暫定的のものであることから生ずる当然の結果であつて、これがために逆に解散決議が仮処分に反して無効であるということはできない。
それ故この主張もまた失当である。
右に述べたとおり、北日本製鉄株式会社が解散して清算人が選任されたからには、これまでの取締役の地位は消滅して新しく選任された清算人が会社の機関となつたことになる。この場合右取締役職務代行者の地位は仮処分が取り消されない以上存続するけれども右の事情が生じたことによつて、もはや存続する必要がなくなつたというべきである。してみれば本件仮処分決定は、決定後に生じた右のような事情の変更により、民事訴訟法第七百五十六条、第七百四十七条にしたがつて取り消すべきものである。
よつて申立人等の本件申立を正当と認め、申立費用の負担につき、同法第八十九条、第九十三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第八部
裁判長裁判官 小川善吉
裁判官 太田夏生
裁判官 宮本聖司